「ローパスフィルターレス」の正体

 撮像素子のピクセルピッチに対して十分に解像度が低いレンズを組み合わせることで、ローパスフィルタを省略したコンパクトデジカメが現れたと指摘したのは2012年だったが、最近ではローパスフィルタレスがレンズ交換式カメラへ広がりを見せている。

 

 最近のコンパクトデジカメでは素子の小型化と画素数の向上によって画素の微細化が進み、ナイキスト周波数が非常に高くなっている。ところがレンズの解像度は頭打ちだ。販売価格低下を受けたコスト削減の結果、むしろ精度は劣化しレンズの性能は落ちている。画素微細化による回折の寄与も無視できない。センサーのナイキスト周波数に対して、レンズの解像度が充分に低い関係が成り立っている。

 すなわち、レンズ自体がローパスフィルタの役割を果たしていると言える。

MTFによる光学機器の性能評価#5 デジタル固有の制約

 

 最近になってアンダーサンプリングを標本化後に取り除く画期的な手法が開発されたわけではない。コンデジ同様、レンズ交換式カメラの画素数競争が一線を越えただけである。ローパスフィルターを省いたボディを世に出せるということは、ピクセルピッチの微細化が交換レンズの解像度を超えたことを意味する。

 

 ここに至り、ユーザーサイドから見て不可思議とも思える現象が起きる。

 

 ローパスフィルターを装着した低画素数ボディと、ローパスフィルタを省略した高画素数ボディ、前者の方がモアレが出やすいというのだ。

 

ところが、α7とα7Rをまったく同じシーンで同じ撮影条件で撮り比べてみると、ローパスありのα7のほうに偽色/モアレがぽこんぽこんっと出てくる。α7Rでは出てこない。どーゆーことなんだろう、これ? 

 α7とα7Rとモアレ/偽色

 

 これはα7Rの撮像素子の画素ピッチがレンズの解像度より狭いことと、レンズの解像度はα7の画素ピッチより高いことの二点を示している。

 

 α7Rの撮像素子の画素ピッチがレンズの解像度より狭いことは、135判3,640万画素のα7Rの画素ピッチが規定するナイキスト周波数が、撮り比べに用いたレンズの解像度より高いと言い換えられる。下世話な言い方をすれば、レンズが負けている状態だ。

 

 では、レンズの解像度がどのあたりにあるかというと、α7でモアレが出たという事実から135判2,430万画素が規定するナイキスト周波数を超えていることがわかる。この画素数なら、レンズが勝っているということだ。

 

 二つボディの結果から、比較に用いたレンズの解像度は、135判2,430万画素相当以上 3,640万画素相当以下と推測される。繰り返しになるが、まとめる。レンズの解像度がα7Rの撮像素子のナイキスト周波数をを下回っているがために、同機と組み合わせたときにはモアレが生じなかった。一方α7では、レンズの解像度が撮像素子のナイキスト周波数を超えていたからこそモアレが生じた。

 

 レンズの解像度が撮像素子のナイキストを超えていればモアレは当然発生する。これを避けるためレンズと撮像素子の間に光学ローパスフィルターが挿入されている。α7にはローパスフィルターが入っているにもかかわらずモアレが生じてしまったのは、カットオフ周波数の設定または、カットオフ特性に難があることをまず疑う。

ドコモの不振はキャリアのよる垂直統合モデルへの不信任だ

 先週、NECスマホ事業から撤退するという衝撃的ニュースが駆け巡ったが、これに関するNTTドコモの加藤社長の発言が話題になっている。

「(国内メーカーは)3~4年、同じことを繰り返してきた。(端末を)作った、売れない、故障する、評判が悪い。ぜひ、ツートップに入るぞという気合を持っていただくとありがたい」

ドコモ社長「国産端末は売れない、故障する、評判が悪い」発言が“正論すぎる“と話題に

 いやいや、貴方がそれを言ってはいけないでしょう。その評判の悪い端末を企画したのは貴社に他ならない。日本のケータイ業界はキャリアが企画し、メーカーが設計、製造する分業体制になっている。これはプライベートブランドのビジネスモデルに近い。メーカーはドコモが定義した要件通りに実装を行い、端末を納入する。そうした経緯でつくられた端末が、故障する、評判が悪い、売れないの悪循環に陥っている。ドコモの看板を背負ったスマホが醜態を晒していることへの自覚があまりに薄い。

 

 国産スマートフォンは実際評判が悪い。通話着信に失敗するほど信頼性が低い、ハングアップして初期化が必要になる、著しく電池のもちが悪い。出始めのAndroid端末を購入した先駆的なユーザの口からは、ドコモのスマホへの不満が溢れる。使えないAndroidスマホに嫌気がさして、2年契約が終わるとともに他社へ、iPhoneへ乗り換える。個々の契約者のドコモ離れ、Android離れの意向が契約者減やMNPの流出としてトレンドに捉えられるほどの動きを示しはじめた。

 

 ここ数年間、ケータイ向けに企画された新サービスにヒットがなかったが、ユーザにしてみればメニューの中に使わないアイコンが少々増えただけで実害はなかった。ところがスマホではキャリア独自サービスがユーザに害をなす。しかも不具合の犯人がドコモ独自サービスであることが垣間見えるようになってしまった。

 

 以前使っていたGalaxy noteでは「ドコモ地図ナビウィジェットは停止しました」とのエラーメッセージが頻繁に表示される。かつ、GPSをオンにした状態での電池のもちは異常に悪い。こうなると、不具合の原因をドコモのサービスと結びつけて考えるのも当然だろう。

 

 この結果、ケータイの時には無視されるだけだったキャリア独自のサービスは忌避すらされ、できるだけ素のグローバル端末に近い端末が求められるようになっている。日本だけでiPhoneがやたらもてはやされるのもこれが一因だと思う。ここに至り、消費者はキャリアは土管に徹することを求めている。キャリアは基本に立ち返り、通信サービスを改善すべきだ。

「フィーチャーフォン」が作れないならベーシックフォンを作ればいいじゃない

 おいそれとフィーチャーフォンを再興できる状況では、どうやらなさそうだ。

「ガラケー再興」待望論は根強くあるものの… 作りたくても作れない、製造サイドの事情とは

 

 筆者は、ソフト、OS、ハード、機械部品、コンテンツ、広告モデル、あらゆる面からフィーチャーフォンへの回帰は、もう不可能としている。フィーチャーフォンへの回帰と限定するあたり、さすがにクロサカ氏はよくわかっているなあ、と思った。

 

 たしかに、二つ折りのブラウザフォンへの回帰はもう不可能だろう。この点全く同感だ。しかし、消費者の「ガラケー」への郷愁を満たすのに、以前と同じような多機能の極みに達して肥大化したフィーチャーフォンが必要なのだろうか。

 

 確かに私の周りでも、「ガラケーが懐かしい」とか「やはり2台持ちじゃないと無理」といった声は、しばしば聞かれる。それも、いち早くスマートフォンへ移行した都市部の消費者、特に音声通話がある程度は必要なビジネスパーソンからの声が大きい。  電池問題、セキュリティやプライバシーの懸念、通信障害、音声通話端末としての不便さ、等々…。スマートフォンの普及に伴い、その課題も浮き彫りになってきた。フィーチャーフォンの「守られていた居心地のよさ」という魅力が、それを失ったことで再評価されている。 

「ガラケー再興」待望論は根強くあるものの… 作りたくても作れない、製造サイドの事情とは

 

 ざっくりまとめると、再評価されているのは、「ガラケー」の電話としての信頼性と可用性だ。ブラウザフォンが求められているのではない。ならばベーシックフォンで良いではないか。

 

 ブラウザを切り捨てて通話機能とSMSに絞り込んだベーシックフォンならば、Linuxベースのモバイルプラットフォームを使う必要はない。RTOSでも実装可能だ。もっとも、ミドルウェアが揃ったLinuxプラットフォームの方がかえって簡単かもしれない。この場合でもアプリケーション層のコードが少なくて済む分、スマホより高い信頼性が期待できる。3Gの寿命が続く限り、携帯電話キャリア回線交換方式から手を引かない限り、ベーシックフォンの製造が可能だろう。

「ケータイ」イコール「ガラケー」ではない

ガラケーという高度に日本市場に最適化された製品から、スマホといういわばグローバル市場でまとめて売るための最大公約数的で大雑把な製品へとシフトする流れの中で、ガラケー最強の一時代を築き上げてしまったドコモは、今まさにその築き上げてしまった大きな資産をどうやって処分するかに悩んでいるのでしょう。

ガラケーの未来がキャリアの未来と重なる時代

 

 ドコモがガラケー時代の遺産の決算を迫られてるという点は同意するが、スマホ以前の携帯電話を十把一絡げに「ガラケー」呼ばわりするのはいくらなんでも大雑把じゃないですか。ここをキチンと切り分けないと、処方箋は示せないだろう。

 

 なぜ、日本の携帯電話を取り巻く状況が「ガラパゴス」と呼ばれるようになったのか。ユーザビリティとニーズを無視した多機能の追求に突き進んだことでグローバルな価値を失い、国内市場に特化した特殊なプロダクトになったことが、ガラパゴス化と形容されたのだ。

 

 ガラパゴスケータイことガラケー*1は、一般的には高機能な携帯電話を意味するフィーチャーフォンと呼ばれる*2。これに対して従来型の携帯電話はベーシックフォンである。日本であまり使われてこなかった言葉だが、今後スマートフォンと並立して生き残るのはこの種の携帯電話と予想されるため、ここで改めて確認しておきたい。

 

 さて、日本のキャリアのラインナップに残っているケータイはどちらにあたるのだろうか。世界的には通話とSMS, MMS等のショートメールのみに対応する端末をベーシックフォン、これに加えてwebブラウザやカメラ音楽再生機能などを付加した端末がフィーチャーフォンと呼ばれていた。既に過去形だが。というのも、海外ではフィーチャーフォンが浸透する間もなくスマートフォンが普及し、フィーチャーフォンは過去のものになってしまっているからだ。

 

 日本で広く使われてきた所謂「ガラケー」は明かにフィーチャーフォンに属している。電話、メールに加え、考えられる限りの高機能化を図ってきたからだ。

  

ベーシックフォンより多機能、スマートフォンほど自由度はない

第458回:フィーチャーフォン とは

 

 ところが高機能化は行き詰まった。現在、各キャリアがラインナップしているケータイは以前よりシンプルなものがほとんだ。かつてスマートフォンが日本で受け入れられにくい理由として、ワンセグおサイフケータイ、赤外線通信の欠如が挙げられたことがある。この三機能は現行のケータイにもおおむね載っているが、オミットされるのは時間の問題かもしれない。たとえばソフトバンクの2012年冬モデルの202SHからは、おサイフケータイが省略されている。このあたりはさすが機を見るに敏と言わざるを得ない。これからケータイを購入する消費者が機能よりコストを優先することを鋭く見抜いている。

 

 ケータイがベーシックフォンに向かうこの流れはおそらく止められない。長いスパンで見ればスマホへの統合もありえるが、当分はスマホとベーシックフォンが並立するだろう。スマホ端末と回線契約をバンドルした従来の携帯電話キャリアのコアビジネスと、基盤インフラとしての携帯電話サービスを並立が求められる。契約数シェアでほぼ半数をもつドコモは相対的に後者の役割を強く求められることになる。これが最初に述べた「ガラケー時代の遺産」だ。

 

 ドコモが契約者のボリュームを守りたいのなら、この層をどう扱うかが鍵になる。収益につながらないが、数は多いという厄介な顧客である。固定のように上下分離して、基盤サービスはインフラ会社に任せてしまう方法も考えられるが、現実的に可能かどうか。

*1:蔑称として使われた経緯があるので無闇に使うべきではない

*2:記事中にも言及されている

再起動

 先月をもってはてなダイアリー版 "oblique view"は公開を終了しましたが、再度の公開を求める声を頂きました。過分な評価をいただき恐縮です。リクエストいただきましたエントリーを再度公開いたします。以前のようなペースでの執筆は難しいと思いますが、今後ともよろしくお願いいたします。

2012-03-23 Aquila

MTFによる光学機器の性能評価#5 デジタル固有の制約

前回のおさらい

   • 135フォーマット銀塩フィルムは最大3,500万画素に相当?

   • 同じフォーマットサイズなら、画素数が多いほど高い空間周波数領域でのMTF評価が必要

  • フォーマットサイズが小さいほど、高い空間周波数領域でのMTF評価が必要

 銀塩フィルムの時と同じ空間周波数で「MTF特性図」を示してもらっても、撮像素子の画素数や、フォーマットサイズによっては全くの無意味だよ、という話を前回行った。

 フォーマットサイズによってレンズへの解像度要求が変わるということは、銀塩フィルムでも起きていた。ところが、中判以上を手にする人が限られていたことや、135より小さいフォーマットで画質を云々することがなかったため、あまり知られていなかっただけのことだ。

 それで話は終わりなのだが、デジタルはその名の通り離散量を扱うため、これまでになかった制約がある。このうち、前回も少し触れた標本化定理について解説して最終回としたい。

 

量子化と標本化

 銀塩フィルムでは、光の強度という連続値をそのまま記録していたが、デジタルカメラでは離散値に変換して記録する。離散とは飛び飛びということで、平面を構成する無数の点の中から、ある区域を代表する一点を選ぶことを標本化という。それぞれの点における光の強度は連続値だが、これも飛び飛びの値で読み取って離散値にする。これを量子化という。標本化はsampling、量子化はquantizationである。

 標本化の間隔が長すぎれば、得られる画像は解像度が失われたモザイク像となり、量子化の間隔が開きすぎれば、濃淡の再現性が失われる。どの程度の間隔が適当かを知りたいところだが、実は適切な量子化間隔は定量化されていない。その一方で、適切な標本化間隔は信号に含まれる最大の空間周波数がわかっていれば、定量的に表すことができる。

 

標本化定理

 標本化定理とは、信号に含まれる最大の空間周波数を保存するには、空間周波数の1/2以下の間隔で標本化する必要があるというものである*1。すなわち、最大の空間周波数が10LP/mmの場合、1/20mm以下の間隔で標本化しなければならないということ。

 言い換えれば、長さで見たときの標本化間隔(サンプリングピッチ)の2倍までが再現出来る信号の限界ということになる。この限界をナイキスト周波数といい、周波数で表現すると標本化周波数の1/2となる。たとえば、音楽用CDは44.1KHzで標本化されているので、ナイキスト周波数は22.05KHzである。

 では、ナイキスト周波数より周波数が高い信号を入力した場合、どうなるだろうか。

 

エリアシング

 ナイキスト周波数から求められるサンプリングピッチより空間周波数が高い信号を入力すると、Fig.5.1のようなモアレが生じる。

 

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      Fig.5.1 アンダーサンプリングによるモアレ

 

 モアレはエリアシングエラーの一形態で、出力画像に入力信号にはなかった低周波成分が混入する。

 

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           Fig.5.2 入力信号

 

 Fig.1.1には枠内の1/2ほどの周期の振動成分が現れている。現れる周期はサンプリングピッチと空間周波数の関係によって様々だ。条件を変えると、Fig.5.3のような異なる振動成分が現れる。

 

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     Fig.5.3 アンダーサンプリングによるモアレ2

 

 包絡線を取ると、Fig.5.1の場合は入力信号の1/32の周波数の振動成分が現れ、Fig.5.3の場合は1/12の振動成分が現れている。どちらにせよ、入力信号と比べて遥かに低い周波数の振動成分が混入し、偽像(アーチファクト)となっている。*1 

 標本化定理を満たさない条件で入り込んでしまった低周波数成分は、数学的には分離不能だ。 ここをもう少し説明する。

 

 エリアシングエラーは折り返しエラーと呼ばれる。これは、ナイキスト周波数以上の空間周波数成分が低空間周波数側に侵入することを表している。#3で示したMTF、このときのグラフは120LP/mmで打ち切ったが、実はこの先、つづきがある。

 

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         Fig.5.4 120LP/mmまで

 

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        Fig.5.5 250LP/mmまで

 

 一度下がった応答が、また立ち上がってくるように見える。しかし、これは250LP/mmの信号が含まれている、というわけではない。空間周波数領域では、周波数成分のスペクトルが鏡像のように繰り返し無限に現れる*2。ナイキスト周波数より上には左右反転したスペクトルが存在する。スペクトル同士の間隔は、サンプリングピッチの逆数に比例する*3。サンプリングピッチが狭いほど、スペクトルの間隔は遠くなる。逆に、サンプリングピッチが広いほどスペクトル同士の間隔が近づき、広げるにつれ、いずれ衝突してしまう。

 

 空間周波数の上限にくらべてサンプリングピッチが広すぎる場合、隣り合うスペクトルが衝突することで高周波数成分が低周波数成分に混入し、エリアシングエラーとなる。エリアシングエラーは、一度混入してしまったら分離できない。このため、ナイキスト周波数以上の信号を切り捨てるためにLPF(Low pass Filter)が用いられる。

 

ローパスフィルターの必要性

 CCDやMOSのような離散型イメージセンサーの場合、サンプリングピッチは素子ごとに一定だ。ナイキスト周波数は一意に求められる。これを超える信号はエリアシングエラーとなるので、センサーに入力させてはならない。このため、ナイキスト周波数より低い空間周波数領域だけを通す、Low pass Filterが撮像素子の前に入っている。後述するがコンパクトデジカメのように、レンズのMTFから、ナイキスト周波数以上が通過しないことが保証されている場合、LPFが省略されることもある。この場合、レンズがLPFの働きをしていると考えれれば良い。

 よくある誤解に、ローパスフィルターはベイヤ型カラーフィルターだから必要、というものがある。三色4セル1セットに同じ信号が落ちなければ、拙いのではないかという素朴な直感に基づくものだろうが、間違っている。モノクロセンサーでもLPFは必要だ。 

 

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 Fig.2.1 ベイヤ配列カラーフィルタによる色分解

 Foveon x3にはローパスフィルターは不要というメーカーの主張に対し、ユーザーサイドでその理由が考察されているが*4、その内容は相当に怪しげだ。折り返しによるエリアシングエラーは、離散的に標本化する以上避けられない。画素の面積や開口率云々を挙げられる方がいるが、それでノーマライズされる空間周波数領域はナイキスト周波数の二倍以上で、視覚上問題になるモアレへの影響は少ない。

 ただ、各色のサンプリングピッチが同じFoveon x3の場合、エリアシング成分の色ズレが起きないため目立ちにくい。Fig.2.1の通り、4セルに3色を敷き詰めたベイヤ型カラーフィルタは、フィルタ色ごとにサンプリングピッチが異なる。モアレに色が乗り目立ちやすい。

 Foveon x3でもLPFなしではモアレは発生するが、輝度変動のみで目立ちにくいため省略してしまっても鑑賞上の不都合がない、と言い換えた方が良かろう。ユーザによって撮影されたチャートの像に、しっかいモアレが出ているケースも少なくない。

 

ローパスフィルターを省略できる場合

 先ほど述べたコンパクトカメラにおけるローパスフィルタの省略についてもうすこし詳しく説明する。

 最近のコンパクトデジカメの中にはローパスフィルターを省略しているものがある。繰り返しになるが、ローパスフィルターはナイキスト周波数以上の空間周波数を離散型イメージセンサーに入力しないためにある。言い換えれば、入力信号の空間周波数イメージセンサーナイキスト周波数以下に収まることを保障するためのものだ。

 要するに、入力信号の空間周波数ナイキスト周波数以下であることが保障されている場合、ローパスフィルタは不要だ。

 カメラシステムならば、レンズの解像度がイメージセンサーナイキスト周波数を下回っていれば、イメージセンサ前面に光学的ローパスフィルタは必要ないということになる。

 最近のコンパクトデジカメでは素子の小型化と画素数の向上によって画素の微細化が進み、ナイキスト周波数が非常に高くなっている。ところがレンズの解像度は頭打ちだ。販売価格低下を受けたコスト削減の結果、むしろ精度は劣化しレンズの性能は落ちている。画素微細化による回折の寄与も無視できない。センサーのナイキスト周波数に対して、レンズの解像度が充分に低い関係が成り立っている。

 すなわち、レンズ自体がローパスフィルタの役割を果たしていると言える。

 

センサー画素数と記録画素数

 デジタルの世界では標本化定理があるため、ナイキスト周波数以上の信号は切り捨てなければならないことを説明した。

 ところが、大概のデジタルカメラはセンサー画素数と同じ大きさの画像を出力する。800万画素センサのカメラからは、3,264x2,448画素の画像が出力される。これは実はおかしな話だ。カラーフィルタを措くとしても、本来1,632x1,224画素ぶん、200万画素相当の信号しか得られていないはずだ。

 センサー画素数と同じ大きさの画像が出力されるのは、内部で補完処理されているからに他ならない。長さ方向2倍に拡大をしている。このため、1ピクセル単位で解像することは原理上ありえない。この状態を「ピクセル解像」と呼ぶ方がいるが、これを達成するにはふたつの条件が必要になる。

 ひとつはナイキスト周波数以上をセンサーに入れること、もうひとつはセンサーの標本化位置とチャートの縞模様の位置関係が一致することだ。

 前者を満たすことはモアレの発生を甘受することになる。実際LPFの利きを弱めたとされるカメラでは、モアレが発生している。

 その上で後者の条件が満たされた場合には、ピクセルピッチと同等の縞模様が再現できる。ところがこれはチャートとセンサーの位置関係に依存しておりリニアリティがない。実用上無意味である。

 

番外編のまとめ

   • デジタルには固有の制約があるので注意が必要である

 • 標本化定理によるナイキスト周波数は、サンプリングピッチの二倍である

 

*1: Foveonでのサンプルをよく見ると、こうしたモアレが見つかることがままある。メーカーは注意深く避けているが、個人がチャートを撮影した作例にはしばしば見られる。これはもちろん、光学LPFの省略が原因だ。

*2:Fig.1.5はFFTで算出しているので、空間周波数の上限がサンプリング周波数になっている

*3:δ関数によるクシ関数をフーリエ変換すると同じようにクシ関数になるが、その間隔は空間領域の間隔の逆数になるので

*4:http://ja.wikipedia.org/wiki/Foveon_X3#.E3.83.AD.E3.83.BC.E3.83.91.E3.82.B9.E3.83.95.E3.82.A3.E3.83.AB.E3.82.BF.E4.B8.8D.E8.A6.81.E8.AB.96

 

MTFによる光学機器の性能評価#4 銀塩フィルムとデジタルの違い

前回のおさらい

 • MTFの計算法には、チャート法とフーリエ変換法がある。

 • PSFがわかればMTFがわかる。MTFやPSFがわかれば、入力画像がどうボケるかわかる。

 前回は連続関数としてのMTFが、ボケの評価に有用ということ、カメラメーカーが公表している「MTF特性図」でも、限定的ながらレンズの特性を読み取れることを説明した。多くのメーカーは銀塩フィルムのときと同じ基準で「MTF特性図」を公開しているが、デジタルでもそれが有用なのかどうかを考えていきたい。これまではデジタル特有の問題点に触れずに話を進めてきたが、今回は、銀塩フィルムとデジタル撮像素子の違いについて一歩踏み込んでみよう。

 

10LP/mmと30LP/mm

 メーカーの公開しているレンズのMTF図をこれまで「MTF特性図」と呼んできた。最大手のキヤノンの表記に従ったのだが、各メーカーで呼び方が微妙に異なる。

 

 •キヤノン; MTF特性図

 •ニコン; MTF曲線

 •ソニー; MTF曲線

 •オリンパス; MTFチャート

• シグマ; MTFチャート

 

 前回説明したように、MTF特性図とは低空間周波数と高空間周波数の二条件でのコントラスト応答を、レンズ中心から外周までの応答の変化を半径方向に測定位置を変えながら測定したものだ。空間周波数領域での連続関数である、MTFそのものではないことを繰り返しておく。

 多くのメーカーで、低空間周波数は10LP/mm、高空間周波数で30LP/mmで計測している。この測定基準は銀塩フィルムの時代と変わらない。果たしてそれで本当に大丈夫なのだろうか。

 

銀塩フィルムは何万画素相当か?

 デジタルカメラの撮像素子の解像度は画素数で表される。撮像素子間の比較は画素数が手がかりになるが、銀塩フィルムとの比較は困難だ。銀塩フィルムが何万画素に相当するかがわかれば、今後の計算に役立つはずだ。

 銀塩フィルムが何万画素に相当するかは諸説あるが、ここではフィルムメーカーのデータシートを手がかりに計算してみよう。

 

 velvia50 (RVP50)のデータシート*1によれば、コントラスト比1.6:1で80本/mm、コントラスト比1000:1では160本/mmとされている。しかしこれは限界解像度での評価で、分解能同様、写真表現にはあまり意味のない数字だ。*2 限界解像度は画像の変調度が5%まで下がる空間周波数で定義されることが多く、ここまで応答が下がってしまうと測定はできても、肉眼での観察は難しい。

 実際には40LP/mmでもフィルムのコントラスト応答は50%を切ってしまう。このあたりを写真表現上の上限と見るのが適当だ。では、40LP/mmを限界解像度としたとき、画素数で表現すると何万画素になるのだろうか。

 135フォーマット(いわゆる35mmフルサイズ)での露光面は、縦24mm、横36mmである。Line pairは、白黒一本づつがセットなので、40LP/mmを再現するには、

24x80x36x80=5,529,600

 550万画素あれば足りるように思える。

 

 しかし、この計算には二つの要素が抜けている。

 ひとつは色分解のためのカラーフィルターが計算に入っていないこと。もうひとつは、デジタル系には標本化定理という制約があることだ。

 両者のうち標本化定理の制約は特に厳しい。標本化定理とは、有限の間隔で離散的にアナログ量を取り扱う場合、それが含む最大周波数の二倍以上の周波数で標本化(サンプリング)すれば、もとのアナログ信号の全ての情報が保存出来るというものだ。*3 サンプリング周波数が不足すると、Fig.4.1のようなモアレが生じる。 

 

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 Fig.4.1 アンダーサンプリングによるモアレ

 

 135フォーマットでの40LP/mmの入力信号は縦方向1,920ピクセル、2,880ピクセルである。これをデジタル系で取り扱うには、二倍の縦方向3,840画素、横方向5,760画素が必要となる。

 これに加え、多くのデジタルカメラは二次元配列されたカラーフィルタで色分解を行っているため、必要な画素数はさらに多くなる。複数のピクセルからの出力を合成して、ひとつのピクセルの輝度と色を決めているからだ。

 

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 Fig.4.2 ベイヤ配列カラーフィルタによる色分解

 

 あるピクセルからは一色分の輝度データしか得られない。最も多いGrからの出力を輝度情報とした場合でも、単純計算で倍の画素数が必要となる。実際にはBやRからの出力で補完するため、実装にもよるが1.2倍から1.3倍で済むようだ。

 これらから、135フォーマットのVelvia 50は、2,700から3,500万画素に相当すると考えられる。ただし、これはRMS粒状度8の低感度超微粒子フィルムでの数字で、銀塩フィルムのチャンピオンデータに近い。ISO100のASTIA 100F(RAP F)では限界解像度は60LP/mmで、RVP50の80LP/mmより低く、同様に計算すると1,500から1,900万画素画素相当になる。

 

ClarkVision.com: Film versus Digital My Summary

 こちらのサイトでは、135フォーマットのVelvia 50で、上を見て1,600万画素相当と分析している。リーズナブルな結論と思う。

 

銀塩フィルム前提の評価基準はデジタルカメラで通用するか

フォーマットが同じ場合

 135フォーマットの銀塩フィルムは、上を見て3,500万画素に相当するという計算になった。この画素数に到達したカメラはまだないので、銀塩フィルムで使えたレンズは、デジタルでも同じ程度に使えるという結論になる。ところが、フィルムでは目立たなかった解像度不足が、撮像素子では1,000万画素程度で確認できてしまうことがある。

 銀塩フィルムの場合、超微粒子フィルムの限界解像度まで余すことなく使うようなシビアな使い方は普通はしない。アナログ系では限界付近の性能はあまり安定しないからだ。精細さが必要な用途では、中判、大判が使われてきた。

 ところが、デジタルの場合、画素ピッチが規定するナイキスト周波数までコントラスト応答はドロップしない。*4 このため、常用される領域が銀塩フィルムと比べて高空間周波数側に寄っている。

 

 使い方、見方が変わってきているので、銀塩フィルムの解像度を画素数に変換して直接比較するのはやや問題がある。

 よって、「何万画素を超えたら銀塩のレンズを使い回すのは難しい」といったように数字でクリアな結論を示すのは無理だろう。個々のケースに応じて考察する必要がある。

 

 ただ、メーカーが公表しているレンズのMTF特性図が、ボディの限界解像度をカバーできているかどうかは、おおむね計算で求められる。

 ソニーはCarl Zeiss銘のレンズに限って、30LP/mmを超える領域でのMTF特性を公表している*5ので、これで足りるかどうか見てみよう。

 ソニーはCarlZeiss銘のレンズの10, 20, 40LP/mmでのMTF特性図を公開している。同社のα900は135フォーマットながら2,460万画素と市販デジタルカメラで最大級の画素数があり、レンズへの要求が厳しい。記録画素数は6,048×4,032ピクセルで、画素の密度は168.5ピクセル/mmに達している。このセンサーのナイキスト周波数は、カラーフィルター抜きで42.1LP/mmである。カラーフィルタとプロセッサでの補完込みでおおむね35LP/mm程度と予想される。30LP/mmでの評価では追いつかない。40LP/mmでの評価を公開しているのは良心的だ。*6

 同様に計算すると、キヤノンのEOS 5DmarkIIや1Ds MarkIIIは、ナイキスト39LP/mm。実効限界解像度は32.5LP/mm程度なので、30LP/mmでの評価ではやや不足。これらのカメラで使う場合の目安にはならない。画素数を増やした以上、35もしくは、40LP/mmでの評価を公表していただきたい。

 ニコンのD3やD700は、ナイキスト29.6LP/mm、実効限界解像度は24.6LP/mm程度なので、30LP/mmの評価で足りる。

 

フォーマットが異なる場合

 一方、フォーマットサイズについては比較的クリアな説明が可能だ。

 現在デジタル一眼レフでは、135、APS-H、APS-C、Fourthirdsの四種類のフォーマットが使われている。用途が同じならば、フォーマットが小さいほど撮像面の拡大率は増す。四切サイズ(240x290mm)に伸ばす場合の拡大率は次のようになる

 

 • 135 (Canon EOS5D markII 24x36mm) 10倍

 • APS-C (Canon EOS50D 22.3x14.9mm) 16.1倍

 • APS-C (Nikon D300 23.6x15.8mm) 15.2倍

 • Fourthirds (olympus E-30 17.3x13mm) 18.5倍

 

 画素数はいったん措くとして、APS-C(canon 50D)がプリントで135と同じ解像度を得るには、撮像面では1.52倍の空間周波数で135と同じコントラスト応答が得られなければならない。すなわち、135用レンズが30LP/mmで0.9のコントラスト応答が得られているとすると、APS-C用レンズは48.3LP/mmで0.9のコントラスト応答が得られなければならない。ところが、メーカーが公表しているコントラスト応答は、135と同じ30LP/mmでの値だ。

 

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      Fig.4.3. MTFの一例(#3 より引用)

 

 MTFは空間周波数が高くなると急速に落ちる。APS-Cフォーマットの撮像素子の評価するのに、135フォーマットと同じ30LP/mmでは全然足りない。APS-C用のEF-SレンズやDXニッコールレンズは、高い空間周波数領域での評価を公表すべきだ。APS-C以上に小さいフォーマットであるFourthirdsを採用しているオリンパスは、60LP/mmでのコントラスト応答を公表している。キヤノン、ニコン両社にもフォーマットサイズに合わせた測定基準でのMTF特性図を公表するよう、強く望みたい。

 

今回のまとめ

 • 135フォーマット銀塩フィルムは最大3,500万画素に相当?

 • 同じフォーマットサイズなら、画素数が多いほど高い空間周波数領域でのMTF評価が必要

 • フォーマットサイズが小さいほど、高い空間周波数領域でのMTF評価が必要

 

*1:http://fujifilm.jp/support/pdf/filmandcamera/datasheet/ff_velvia50_001.pdf

*2:レンズの評価にフィルムの限界解像度より低い30LP/mmが使われていたのは肉眼では空間周波数の上端付近の成分は認識しにくいからだろう。JPEG圧縮ではDCTのあと高い空間周波数成分を大胆に切り捨てているが、それでも鑑賞に堪える画像を再現できている。

*3:標本化定理については次回取り扱う

*4:実際にはLPFの周波数特性が理想的ではないので、ナイキスト周波数より低い空間周波数領域から信号強度のドロップが起きる

*5:無銘のレンズは非公開、Gレンズは30LP/mmまで

*6:MTF特性図を見ると、40LP/mmでのコントラスト応答はかなり厳しい。135フォーマットでは中心から21.6mmまでが画面内に入る。SAL1635ZやSAL2470Zなど、F2.8通しの広角ズームや標準ズームでは、広角端、絞り解放で20mm付近での応答が10%を切っている。描写に定評のある広角レンズでも周辺部での応答はこれぐらいが相場ではあるが、数字の一人歩きを嫌うメーカーが見せたくないと考えるのも理解はできる。