MTFによる光学機器の性能評価#1 空間周波数とコントラスト応答

はじめに

 あるメーカーのホームページでは、MTF特性の見方を次のように解説している。

MTF特性図上の10本/mmのカーブが1に近いほどコントラスト特性がよく、ヌケの良いレンズとなり、30本/mmのカーブが1に近いほど高解像力を備えたシャープなレンズとなります。

 わかったようなわからないような説明だ。間違ったことは言っていないが、正しい理解を求めているようにも見えない。それもあってかMTFの何たるかはあまり理解されておらず、誤解されていることも多い。

 相も変わらずのケータイ業界に少々愛想が尽きてきたので、携帯電話がらみのエントリーはしばらくお休みとし、MTFによる光学機器の性能評価について今回から数回に分けて解説する。これまでと毛色の違うエントリーで戸惑われる方も多いと思うが、興味のある方はよろしくおつきあい願いたい。

 

レンズへの入力と出力

 入力された画像をそのまま劣化することなく出力できる理想のレンズがあれば、左の縦縞模様を入力するとそのまま右の縦縞模様が出力される。

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   Fig.1.1 理想のレンズの入出力

 ところが、入力した信号を一切劣化させずに出力できるシステムはない。必ず劣化が起きる。レンズの場合はボケが発生する。下の図のように出力はボケる。

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 Fig.1.2 間隔が広い信号を入力したときのボケ

 入力した信号が細かいほど、ボケが強くなる。下の図は縦縞の間隔を半分にした。かけたボケの量は同じで、同じレンズを通した状態をシミュレートしているが、太い縦縞より強くボケているように見える。

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 Fig.1.3 間隔が狭い信号を入力したときのボケ

 

空間周波数

 前項では「信号が細かい」と大雑把な表現をしたが、定量的な表現ができる。縦縞の間隔は空間周波数という尺度で示される。空間周波数は一周期の長さの逆数で表される。1mmの間に縞模様が何本あるかで示され、単位は「本」だ。

 上に示した縞模様の一辺が1mmだとすると、上の太い縞模様は白黒一組として4セットあるので、4本/mm、下の細い縞模様は8セットあるので、8本/mmとなる。LP/mmと表記されることもあり、これはLine Pair/mmの意味だ。

 本数が多いほど、空間周波数が高いと表現する。4本/mmより、8本/mmの方が空間周波数が高い。

 「ボケの量が同じでも、細い横縞は太い縦縞より強くボケる」ということを空間周波数を用いて言い換えると、「ボケの量が同じでも、空間周波数が高い信号ほど強くボケる」となる。

 

コントラスト応答

 前項までは「強くボケる」とこれまた大雑把な表現をしたが、これも定量的な表現ができる。

 信号の最大値と最小値の差をコントラストという。

 入力した4本/mmの信号を波形で表すと、次のようになる。最大値は255、最小値は0である。最大値と最小値の差は255で、これがコントラストに相当する。 

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       Fig.1.4 4LP/mmの入力信号

 

 出力された信号は最大値が240、最小値は8となった。出力のコントラストは232だ。 

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        Fig.1.5 4LP/mmでの出力

 

 このように4本/mmの場合、入力したときは255あったコントラストが出力では232に減少した。割合で示すと91.0%になった。これをコントラスト応答と呼ぶ。

 数字が大きいほど入力信号のコントラストが保存されていることになり、コントラスト応答が良いと表現する。

 

 次に8本/mmの場合を示す。入力信号のコントラストは255だ。

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         Fig.1.6 8LP/mmの入力信号

 

 出力は最大値155、最小値65で、コントラストは91だ。

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         Fig.1.7 8LP/mmでの出力

 

 8本の場合のコントラスト応答は35.2%になった。空間周波数が高いほど、コントラスト応答が劣化することが示された。

 

 正弦波を入力したときのコントラスト応答と周波数の関数がMTF(Modulation Transfer Function)である。*1

 様々な空間周波数でのコントラスト応答を調べることで、MTF*2が求められる。今回求めた4本と8本のコントラスト応答からMTFを求めると、次のようになる。

 

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           Fig.1.8 MTF

 

 縦軸がコントラスト応答(Response)、横軸が空間周波数(Spatial Frequency)である。レンズカタログの「MTF図」とは軸の取り方が異なるので注意願いたい。

 一般に空間周波数が高いほどコントラスト応答は劣化するが、結果はそれと一致している。

 

今回の結論

•信号の細かさの度合いは、空間周波数で表される。

•ボケの強さは、コントラスト応答で表される。

•空間周波数とコントラスト応答の関数がMTFである。

 

*1:今回は簡単のために矩形波を用いた。入力波形が正弦波ではないので、「4LP/mmでのMTFは91.0%である」とは言えない。矩形波応答から正弦波応答を求める式はあるが、煩雑になるので省略する。

*2:なので、これは本当はMTFではなく、「矩形波コントラスト応答」だが、本稿では簡単のためMTFとして扱う。